目次
はじめに 本書が目指すもの
第2版発行にあたって
I 人・国・水
第1章 新しい国の古い歴史——英領インドからの分離・独立まで
第2章 国[デシュ]をめぐる模索——パキスタンからの独立・軍政・民政化
第3章 イスラーム教徒がふえた時期——人口の変遷とその問題点
第4章 ベンガル人かバングラデシュ人か?——アイデンティティの問題
第5章 イスラームをめぐる綱引き——宗教と政治
第6章 議会制民主主義のゆくえ——今日の国内政治
第7章 ガンジス川河口にある国——国土と景観
第8章 資源としての水と災害——恵みとしての洪水
第9章 ベンガル湾の強暴な台風——サイクロン
II 生活に息づく文化
第10章 ベンガル語の位置と今後——言語と社会
第11章 エクシェに思うこと——詩歌
第12章 イスラームの近代——宗教と開発
第13章 自然から生まれた文化大国——現代美術
第14章 ベンガル人の好きなこと——ジャットラとナトックという演劇
第15章 豊潤な民俗音楽——舞踏・楽器・音楽
第16章 イスラーム教とヒンドゥー教——民俗宗教の系譜
第17章 女性の技術が支えるNGOアート——カンタとノクシ・カンタ
第18章 米と魚と洪水と——食文化(魚)
第19章 豊饒な大地の医食同源——食文化(米とトルカリ)
第20章 レンガによる造形——歴史遺産・建築物
III 開発・経済・産業
第21章 開発行政能力の改善——政府の開発政策
第22章 海外資金だのみの経済——マクロ経済の変遷と現状
第23章 遅れた出発——民間企業セクター
第24章 工業国としてのバングラデシュ——製造業
第25章 天然ガスと電力——エネルギー・セクター
第26章 リキシャからジャンボ機まで——交通インフラ・通信
第27章 輸出加工区の内と外——日系企業の動向
第28章 愛憎なかばするバングラデシュ——日本人企業家がみた一側面
第29章 ニュー・リッチと拡大する貧富の差——都市における消費生活の変化
第30章 国際結婚した日本人女性がみた町の暮らし——階級社会の現実
IV 地方・農村・農業
第31章 ユニオン・ウポジラ・ジラ——地方制度の仕組み
第32章 藍・ジュート(黄麻)・紅茶——商品作物の歴史
第33章 ポスト「緑の革命」——農業の変遷と現状
第34章 多様な収入で守る生活——農村世帯の所得
第35章 マタボールの役割——農村の社会構造
第36章 曜日が刻む毎日——村の暮らし
V バングラデシュと世界の関係
第37章 歴史的な束縛を有する容易でない隣人たち——バングラデシュ−インド関係
第38章 新たな段階に入ったバングラデシュ—アメリカ関係——対米関係
第39章 隣のバングラデシュ人——対日関係
第40章 国際舞台でのバングラデシュ——バングラデシュの対外関係
第41章 豊かな生活を求めて——海外出稼ぎ労働者
VI 社会開発の諸課題
第42章 農村の貧困問題——土地なし層を中心に
第43章 スラムとストリート・チルドレン——都市の貧困問題
第44章 忘れられた人々——難民問題
第45章 消されていく文化と人々——チッタゴン丘陵地帯の政治問題
第46章 植民地支配がもたらしたひずみ——清掃人カーストと貧困者
第47章 パルダ・開発・暴力——バングラデシュの女性
第48章 それでも、命は待ってくれない——保健医療の現状と課題
第49章 飲めなくなった井戸水——砒素汚染の現状
第50章 高まる危機と意識——環境事情
第51章 機会拡大と学校の多様化——教育の現状と高まる教育熱
第52章 妊産婦や若者に焦点を——人口と家族計画
VII NGOと小規模金融
第53章 開発の新たなページを開いた3人——社会を変えた創設者たち
第54章 アジア一巨大なNGO——巨大NGO、BRAC
第55章 ちょっと寂しいプレゼンス——日本のNGO
第56章 革命的な貧困対策——小規模金融
VIII 公的援助の諸相
第57章 開発のパートナー——外国政府・国際機関の援助
第58章 日本による国づくり——日本政府の援助
第59章 ODAのなかの草の根事業——青年海外協力隊
第60章 国際援助の受け手として担い手として——国際援助機関とバングラデシュ
おわりに 本書で取り上げることができなかった幾つかの事柄
前書きなど
第2版発行にあたって
初版の発行から6年間が経ち、バングラデシュはその間に大きな変化を遂げた。その現状を出来る限り反映することを目指して、この第2版の編集を行った。
この間に初版の執筆者たちの一部は、バングラデシュとの関わりが遠くなったため、数名の執筆者は交代となった。また内容的にほとんど変更の必要のない章もあった。このためこの第2版の章は、初版と比べて新たに書き下ろしたもの、大幅に加筆・修正したもの、ごく一部の修正に留めたもの、ほとんど同じものに分かれている。編者の力不足により、全体をくまなく、かつ適切にアップデートできていないことは、お許しいただきたい。
繰り返しになるが、この6年間でバングラデシュは大きく変貌した。そのごく一部を紹介しよう。経済面では、バングラデシュはインドよりは少し劣るものの毎年それなりの経済成長を続け、かつてインドについて注目された中間層の数が飛躍的に増加している。政治的には、腐敗一掃を掲げ軍に支えられた暫定内閣による2年間の統治を経て、公正な総選挙が6年ぶりに2008年12月末に実施された。これまでにない高投票率の結果、2009年の日本の総選挙の民主党のような圧倒的勝利をアワミ連盟が遂げ、政権の座についている。NGO界では、2006年にグラミーン銀行のユヌス総裁がノーベル平和賞を受賞する一方、BRACは更に規模を拡大し、世界数カ国で活動を展開している。日本とのかかわりでは、ユニクロをはじめとした縫製業での日系企業のバングラデシュ進出や、サイクロン救援をきっかけにした日本のNGOの現地での活動開始が目立つ。国際関係では、南アジアの他の国と同様に、中国との関係深化が特記事項の1つであろう。
こうした大きな変化を見ていると、個人的には、新進の世代の人たちが中心となって、バングラデシュを広く紹介する新たな本を作ることが要請されていると感じている。しかしそれが適わない現状において、今回の第2版は、それまでのつなぎとしての役割を負うことになる。
私たちが愛してやまないバングラデシュの改めての理解に、本書が役に立つことを願ってやまない。
2009年9月編者 ダカにて 大橋正明/デリーにて 村山真弓