目次
はじめに(園山大祐)
第1部 教育改革を展望する
1 教育改革を問う——公共性・機会平等・学力形成を中心に(藤田英典)
2 フランス式教育制度の大きな特徴(クリスティアン・フォレスティエ)
3 中央集権、地方分権、改革——公教育から国民教育へ(マルク・グジョン)
4 日仏における教育のガバナンスと地方分権化(藤井佐知子)
5 富と学位:2つの制度・交錯する視線——フランスの共和主義的無償制と日本の有償制(ジャン=フランソワ・サブレ)
6 高等教育学位の社会的レリバンスに関する日仏比較(吉本圭一)
第2部 教科に見る不易流行
1 日本の歴史教育政策の政治的構成——戦後初期からポスト冷戦期への展開(近藤孝弘)
2 戦後日本における道徳教——フランスの哲学教育を参照枠として(森田伸子)
3 高校の哲学——フランスのケース(イヴ・ティエリ)
4 欧州における外国語教育——フランスのケース(アルベール・プレヴォ)
5 日仏における外国語教育の現状(上原秀一)
第3部 変容する社会への対応
1 希望格差社会と教育、家族(山田昌弘)
2 なぜフランスの教員は思い悩むのか(エルヴェ・アモン)
3 日本の教師養成——その歴史と文化(岩田康之)
4 教職の困難——学校における無理難題要求(イチャモン)の急増(小野田正利)
5 暴力が学校を麻痺させる時(エマニュエル・ダヴィデンコフ)
第4部 マイノリティへの対応
1 多文化社会における統合モデル——フランスを通して見た日本(中野裕二)
2 フランスの移民の学業達成から何を学ぶか(園山大祐)
3 女性に役立つ学校(クリスティアン・ボードロ)
4 日本の教育システムとジェンダー——教育達成実態に関するフランスとの比較を含めて(木村涼子)
《総括》 日本のルソー研究者から見た最近の日仏教育改革——フランスと日本の文化的相違(沼田裕之)
資料
あとがき(園山大祐)
前書きなど
はじめに
本書は、2008年10月8日から11日にかけて日仏修好通商条約締結150周年を記念して、日仏の社会科学系の研究者、行政官、教員が意見交換を行い日頃の研究の成果を報告し、変貌著しい今日のポスト工業社会における社会とその教育システムの展望を試みたものである。
第1部では、教育制度の変遷を、教育行政、社会学の視点から交錯させ、それぞれの「挑戦」を批判的に考察したものである。ここでは、「第三の改革」をどのように検討し、ガバナンスや、ネオリベラリズムの功罪、OECDと各国の学力論の解釈の違いなど日仏のそれぞれの論争を整理している。また、今日の市場主義、グローバリゼーションにいち早く対応を迫られた高等教育改革においては、特筆すべき点が多く、両国の専門的な見地は、英語圏型の改革とは異にする興味深い事例として取り上げている。こうした教育改革における地方分権、責任主体や効率の透明性、効果の測定方法などをどのように捉えるか、両国には共通した問題も多い。
第2部では、学校教育、とりわけ教科内容に関する比較を試みた。まずは、日本の特徴的な教科書の検定制度を歴史教育の視点から報告し、次にフランスの特徴的な教科である哲学について、日仏の研究者によって比較考察を行った。そして第三には外国語教育について扱った。欧州という新空間における外国語の重要性がよりいっそう高まる社会と依然国際化には出遅れた感が否めない日本が、どのような類似点と差異を考慮しながら、ともに変容を迫られた新しい外国語教育に挑戦をしようとしているかまとめている。
第3部は、近年の日本の社会変容の特徴として見られる「希望格差」を裏づける戦後の社会、教育体制の行き詰まりを解析した上で、教員に焦点をあててみた。なぜなら教育改革の中心には、常にその中心舞台に生徒と教員がいるためである。そこで、教員養成の改革問題の焦点を明らかにしながら、保護者が求めていることは何か、今、学校にはどんな期待がされているのか、あるいは社会一般の不安はどこにあるのか、考察してもらった。日仏の両者の観察は意外にも共通点が多いことに気づく。つまり、消費主義、個人主義の進展が基底となった今日の政治政策に見る市場主義、グローバリゼーションの強化や、ネオリベラリズムの浸透が共通点として浮かび上がってくる。
第4部では、マイノリティへの対応を考究することで変容する社会と教育システムに挑戦できないか検討した。エスニック・マイノリティや女性といった社会的な弱者への対応は、先進諸国に共通した公教育の新たな課題である。ここでは、社会統合の担い手である学校を考える以前に、その政治統合について日仏の問題を整理した上で、個別の事例分析を行った。
以上が本書のねらいと構成である。個別論文については言及しないが、本書の特長は、第一に教育学、社会学、政治学など学際的な研究にある。そして日仏の共同比較研究ということも、本書の豊かさである。両国の視点が交錯することで、新たな情報、知見、分析を豊富にしている。こうした視点の交錯は、2日間のシンポジウム及び、直前の学校訪問や文部科学省との意見交流によってより深まり、交友が将来の日仏の交流において実りのあるものであったと確信をしている。
最後に、本書を手にされた方々に、こうした異文化間交流が生み出す興奮を少しでも伝えることができ、ともに通商150年という歴史の節目に新たな一頁を切り開くことができればと切に願う。
執筆者を代表して 園山大祐