目次
刊行にあたって
この本の読み方
第1章 先史時代の文化と交流
1.先史時代の文化と交流
第2章 三国・加耶の政治情勢と倭との交流
1.三国・加耶の対立と倭
2.人々の移動と文化交流
第3章 隋・唐の登場と東北アジア
1.百済・高句麗の滅亡と日本・新羅
2.新羅・渤海と日本の交流
第4章 10〜12世紀の東北アジア国際秩序と日本・高麗
1.東北アジア世界の再編成
2.10〜12世紀の日本と高麗の関係
第5章 モンゴル帝国の成立と日本・高麗
1.モンゴルの侵略と高麗・日本
2.14世紀後半の東北アジア情勢と倭寇
第6章 15・16世紀の中華秩序と日本・朝鮮関係
1.明中心の国際秩序と日本・朝鮮
2.日本と朝鮮の交流
第7章 16世紀末の日本の朝鮮侵略とその影響
1.戦争の経過と朝鮮の対応
2.戦争の影響
第8章 通信使外交の展開
1.日本と朝鮮の国交回復過程
2.通信使外交と日朝貿易
3.通信使外交の変質と崩壊
第9章 西洋の衝撃と東アジアの対応
1.開港と不平等条約の締結
2.日朝関係の展開と摩擦
3.日清戦争と大韓帝国の成立
4.日露戦争と統監政治
5.抗日闘争と大韓帝国の主権喪失
第10章 日本帝国主義と朝鮮人の民族独立運動
1.朝鮮総督府の武断統治
2.3・1独立運動と文化統治
3.大韓民国臨時政府と様々な独立運動
4.日本人の朝鮮認識と朝鮮人の日本認識
5.朝鮮に生きた日本人と日本に生きた朝鮮人
6.日本の満州侵略と朝鮮社会の動向
7.戦時体制の展開と独立闘争
第11章 敗戦・解放から日韓国交正常化まで
1.日本の敗戦と朝鮮半島の解放
2.朝鮮戦争と日本
3.日韓条約の締結
4.日本の朝鮮・韓国人(日韓条約締結まで)
第12章 交流拡大と新しい日韓関係の発展
1.交流の拡大とその明暗
2.日本の朝鮮・韓国人(日韓条約締結後)
3.日韓関係の今とこれから
より深く理解するために
参考文献(生徒用、教員用・一般読者用)
読者の皆様へ
索 引
前書きなど
読者の皆様へ
この本は、先史から現代までの日本と韓国の交流史を、高校生や若者のための歴史の共通教材として書いたものです。
・なぜこの本を作ったか
今、日本と韓国の関係は、必ずしも順調だとは言えない状況です。その根幹に、靖国神社や歴史教科書をめぐる、日本と韓国の歴史認識の差異があることは明確です。この歴史認識の差異は、両国の政府をはじめとして、双方の多くの市民の間にもあります。それは、日韓の友好を願う人々であっても、解決した問題ではないように思われます。
このような状況にある大きな原因は、日本政府が戦争責任や朝鮮植民地支配について、言葉だけではなく行動で示す反省をしていないことにあると言えます。それが歴史教育にも反映し、さらに、マスコミなどによって増幅され、双方の国の多くの人々にも浸透してしまっているのです。
私たちは、このような状況の克服に少しでも寄与できればと考えて、この本を作りました。日本と韓国で、ともに使える歴史の共通教材を作ることによって、少しでも歴史認識の差異を克服していければと思っています。
・この本のできるまで
私たちは、毎年、冬休みと夏休みを利用して、1997年末から2005年の初めまで、15回にわたって、日本と韓国でシンポジウムを開催してきました。
まず、日本と韓国の歴史教科書を読むことから始めました。お互いの国の高等学校の教科書(日本史と韓国史)を精読し、発表しあいました。自国の歴史をどのように描いているかを確認するためでした。この結果は本にして刊行しました。
次に、日韓で同じようなテーマを設定し、自国の高校生を考慮しながら、教材を作りました。参加者の多くが、教科書を執筆した経験がなく、最初から共通教材を作るのは困難だろうと考えたからです。それと同時に、同じようなテーマで教材を作った場合、どのような差異が出るのかを確認しておこうと思ったからです。共通の歴史認識を求めるためにも、双方の歴史認識の差異を知りたかったのです。この作業では顕著な差異が現れ、これからの作業の困難さを実感するとともに、それだけにこの作業の意義を確信することができました。
このような準備過程を経て、いよいよ共通教材の原稿を書く段階になりました。ここでは何回も原稿を書き直しました。第10回以降のシンポジウムは、できあがった原稿を検討する会の連続でした。まず時代別の6つの部会に分かれて検討会を持ち、第13回シンポジウムからは、異なる時代の執筆者による検討を行い、さらに、15回シンポジウムを経て、できあがった原稿を、編集委員会で全体的に調整しました。
したがって、この本では、各節の執筆者は明示されていません。最初に原稿を書いた人はいますが、何度も討論し、いろいろな人によって修正されてできあがった原稿であり、共同の文章になるように努力した結果ですので、単独の執筆者を明示することができません。当然ですが、日本とか、韓国とか、「執筆担当国」も表示できません。
作業はなかなか困難でした。可能な限り努力はしましたが、その結果、読みやすい、良い教材になったかどうかは、読者の方々の評価に委ねたいと思います。
・読んで欲しい人々
この本は、日本と韓国の高校生を対象とした歴史教材です。ですから、第1の読者は高校生や若者であり、可能なら中学生にも読んで欲しいと考えます。
また、高等学校や中学校の先生、さらに日韓の歴史に関心のある市民の方々を読者として想定しています。一般の歴史書のように難しくはないと思います。市民の皆様の日韓交流史に関する学習会のテキストなどに利用して頂けると確信しています。
・この本の特色
この本の特色は、まず第1に、日本と韓国の歴史の共通認識を探ったことです。日本と韓国には、様々なところで歴史認識に差異があります。それは私たちの作業でも確認してきました。それを前提にして、歴史の共通認識を追求したのです。したがって、ナショナリズム、自分の国の歴史の正統性だけを主張する立場からは、妥協的であると見えるかもしれません。ですが、日本と韓国という、長い歴史を持つ2つの国の間の歴史の共通認識を探ってみると、自国の歴史を見直さなければならない点に気づかされました。このような点を生かした結果、本書のような内容になりました。単なる妥協ではないことを是非ご理解頂ければと思います。
第2の特徴は、歴史の共通認識を教材という形式で探求したことです。ここには2つの意味があります。1つは、歴史の研究論文では決して合意できない歴史の共通認識を、教材という形式をとって実現しようとしたことです。もう1つは、ここに記述された歴史は、日本と韓国の高校生レベルで知っていて欲しい内容が記述されていることです。つまり、双方の歴史学界の研究成果を、高校生レベルの教材を作ることによって、共通認識として合意したのです。
第3の特色は、先史から現代まで、全時代を扱っていることです。日韓の歴史認識の差異は、近代史、特に植民地時代の認識で顕著に現れると思う方が多いようです。でも、近代史は、その長い歴史の積み重ねの上にあるのですから、多くの方の歴史認識は、近代史だけが独立しているわけではありません。その前提となる前近代史、そして現代史の認識と重なって、現在の歴史認識となっているのです。ですから、日韓の共通の歴史認識は、全時代を通して見ないと十分ではありません。全時代的把握が必要なのです。
第4の特色は、ほぼ、日韓交流史の通史的叙述になっていることです。日本と韓国の交流史は、常に良好な関係ではありませんでした。交流がつまずいたり、疎遠になった時もあります。したがって、日韓交流史のトピックになっているところもありますが、全体としては通史的な叙述になっているといえます。
第5の特色は、双方の歴史研究の成果を踏まえたものになっていることです。日韓の歴史を見ようとする時、歴史研究の成果を踏まえることは重要です。歴史教育と歴史研究は、双方の進展にとって補完的であると考えています。ですから、この本では、研究成果を踏まえ、かつ歴史の教材としての独自性を考えながら、日本と韓国でお互いに知っておかなければならない基礎的な事実とでも言うべきものを提示してみました。この本に盛られた歴史は、歴史研究を踏まえたものであり、基本的に知っていて欲しい内容であると理解してください。
・この本を作った人々
1997年末に、日本と韓国の、大学と中学校や高等学校の教員、そこで学んでいる大学院生が、おのおの20人ほどで「日韓歴史教科書シンポジウム」という研究会を組織しました。研究会を進めていくために、日本には歴史教育研究会(代表:加藤章)、韓国には歴史教科書研究会(代表:李存熙)を作りました。そして、事務局を日本の東京学芸大学と韓国のソウル市立大学校に置きました。
この会の参加者は、両国の代表者ではありません。1997年にソウル市立大学校で開催されたシンポジウムを契機に、それを発展させて、「日韓歴史教科書シンポジウム」を組織しました。
2001年の日本における歴史教科書事件をきっかけに、日韓両国政府は、日韓歴史共同研究委員会を組織して、3年間にわたって研究会を行いました。しかし、国家を背景にしては、日韓の歴史の共通認識に到達することは難しいと私たちは考えています。ですから、私たちは自由に意見を交換できる「民間」という立場で、議論を重ねてきたのです。したがって、この研究会には、綱領や規約などというものはありません。自分の意志で参加し、参加者みんなで考えながら、会を進行させてきました。まさに、民間の交流なのです。
・残された課題
私たちは、10年間という長い時間をかけて、最後にこの本にたどり着きました。その間に、一部の時代や特定のテーマを取り上げたいくつかの歴史共通教材が出版されましたが、先史から現代までを取り上げたのは本書が初めてです。
上記のように、この本には多くの特色がありますが、完成された共通の歴史認識を示しているわけではありません。十分に討論し尽くせなかったところや、十分に表現できなかったところもあります。さらに、取り上げることのできなかった重要なテーマもあります。したがって、この本は、日本と韓国のより深い歴史の共通認識への第1歩であると思っています。
さらに、今回の参加者の歴史認識は、両国の歴史認識を代表するものではありません。民間の研究者、教員の集まりであって、国家を代表するものではありません。にもかかわらず、議論の過程では、日本人の歴史認識と韓国人の歴史認識のぶつかり合いもあり、それが構成や内容や、さらには個々の叙述にでていることを認めざるをえません。十分に満足のいく歴史の共通認識を求めることの困難さを、私たちは非常に強く認識しています。10年間かかっても、まだ十分な時間の長さではなかったと思っています。
今後、私たちの成果を基礎に、さらに深められた日本と韓国の歴史共通認識が達成されることを願ってやみません。この本が、そのための第1歩になれば、そして読者の皆様の歴史認識に何か響くところがあれば、幸いです。
2007年2月
歴史教育研究会 編集委員
君島和彦、木村茂光
歴史教科書研究会 編集委員
廉 仁 鎬、李 益 柱