naokoさんの書評 2016/05/17 3いいね!
時計 弁当箱 靴 鍵 ワンピース・・・・・
持ち主を失って 自分の役目が果たせなくなったオブジェが戸惑いながら発するモノローグの数々。
はっとするほど美しい紫のワンピース、これが本当に閃光をくぐりぬけたのだろうか?「贅沢は敵」のあの時代、もんぺの下に密かにしていたおしゃれ。いつの時代も人の心は同じなんだ。非常時とはいえ、人々は市井の営みをしていた。「リトルボーイ」が炸裂して現われたキノコ雲、その時ひとつひとつのかけがえのない物語が断ち切られた。
「おはようございますおはようございます」「いらっしゃいませいらっしゃいませ」
無邪気に繰り返す呼びかけがむなしさを一層喚起する。
作者は広島で「ピカドン」という名を知ったという。科学的な学術名でもなく、正式な名称でもない「ピカドン」。そこから人々の息遣いを感じ取った作者が織りなした「さがしています」。感じてほしい。残されたオブジェが人間に叫んでいる。人間として感じてほしい。アメリカ人も日本人も人間として。
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