紹介
本書は、晩年のスクリャービン(1871~1915)を真近で見た友人レオニード・サバネーエフ(1881~1968)による貴重な「記録」である。晩年の作曲構想――神智学の隙間から覗き見た西欧ロマン主義の独自の解釈――、当時のロシア音楽界、家族のことなど、多くがスクリャービン本人の言葉で語られている。時には歯に衣着せぬ批評をしたとして敵も多かったサバネーエフだが、スクリャービンからは一目おかれていた。初版は1925年に出版されたものの、サバネーエフが西側へ亡命したこともあり、旧ソヴィエト政権下では忘れられていたが、2003年に本国で再刊された。ロシア音楽界では必読書として読み継がれている名著、待望の日本語完訳である。本書の最大の特徴は、スクリャービンが第3交響曲以降の作品を通じて具体化しようとした思いが、本人の言葉通りに記されていることだ。知られざる晩年のスクリャービンの思想が浮き彫りとなる、重要な文献の一つ。
目次
1.次第に見えてきたスクリャービンの姿
2.《交響曲第三番》と《法悦の詩》
3.交際の環、《プロメテウス》、神智学
4.スクリャービンの親族―親族に理解されない幻想的人類史
5.クーセヴィツキーとの断絶
6.日常的ではない祭典としての芸術志向―性的恍惚で終わる神秘劇?
7.三つのソナタの進捗
8.神秘劇への記譜法・調性の色―《プロメテウス》と神秘劇との中間に序幕
9.神秘劇実現のためのインドへの夢―ブランチャニーノフによる英国礼賛
10.のしかかるパートナーとの問題―《光の交響曲》への彼自身の解説
11.神秘劇の前にその序幕を書く―スクリャービンの音楽論を見ながら
12.第一次大戦、序幕の準備が具体化
13.長期の演奏旅行の果てに―没後に展開された俗悪化