内田裕介さんの書評 2018/01/05
ハンス・セリエに興味があって手に取った。
前半はストレス学説が生まれる経緯となった1900年代前半の医学・生理学研究の科学史、後半はセリエ、ギルマンらの内分泌系の生理学者が解明にいたらなかった自律神経系が引き起こすストレス反応の機序についての解説である。
前半は、コッホの細菌研究に始まる近代医学の隆盛と限界、セリエのストレス学説の誕生までがシームレスにつながっていて、たいへん読みごたえがある。
後半についても興味深い話題がつづく。
たとえば、ストレスを受けると副腎皮質からコルチコイドが分泌され免疫系が強力に抑制される(=ステロイドが炎症によく効く)というのは知っていたが、なぜそういう機構が備わっているのか理由がよくわからなかった。
が、これはすでにセリエが実験で確かめていて、副腎を除去したマウスにストレスを与えると免疫系が過剰に反応して(=アナフィラキシー)死んでしまうそうだ。
内分泌系のストレス反応は野生動物には必須だが、人間には自律神経系のストレス反応の方がより重要な意味をもつ、ということらしい。
断片的にしか知らなかったことが、どんどんつながってきて、非常に勉強になった。
10年前、2008年の刊なので知見は進んでいるだろう。杉氏の著作にさらに当たってみたい。
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