紹介
バルザック、ユゴー、サンドなどが活躍し、フランス文学が最も輝いていた十九世紀、一人の有能な編集者がいたことはほとんど知られていません。P・J・エッツェルです。バルザックの『人間喜劇』を企画し、ユゴーとともに亡命を余儀なくされながら彼の詩集を刊行し、サンドと親密な関係を結び、スタンダールを発見しました。本書は、この知られざる名編集者の足跡を丹念にたどった評伝です。フランスでの作家と編集者の関係、著作権・印税の問題など、編集者・出版者から見たフランス文学の裏面が生き生きと描かれています。また、J・ヴェルヌを発見し、まるで自作のように注文をつけ書き直しを要求したエピソードには、編集者の心意気と理想像を見る思いがします。力作です。
目次
目 次】
序 章
第一章 シャルトルっ子
第二章 出版社乱立から統制へ
第三章 輝かしい出発
第四章 バルザックの『人間喜劇』とエッツェル
第五章 パリの悪魔
第六章 二月革命の嵐
第七章 ベルギーに逃れて
第八章 ユゴーの詩集の刊行
第九章 児童出版の時代
第十章 著作権確立への戦い
第十一章 ヴェルヌの発見
第十二章 外国へのまなざし
第十三章 「コレクション・エッツェル」の時代
第十四章 普仏戦争からパリ・コミューンに
第十五章 ヴェルサイユ派とコミューン派のはざまで
第十六章 再建の時代とヴェルヌの最後の日々
第十七章 大作家たちとの精算
第十八章 作家たちへのまなざし
第十九章 出版史とエッツェル
終 章
前書きなど
【本文紹介】
エッツェルは十九世紀フランスにおける最大の編集者のひとりといってよい。バルザック、ジュルジュ・サンド、ユゴー、ジュール・ヴェルヌをはじめとして、ノディエ、ラマルティーヌ、ミュッセ、サント=ブーヴ、アレクサンドル・デュマ親子、プルードン、ドーデ、ゾラ、エクトール・マロ、ヴェルレーヌ、ツルゲーネフ、ミシュレ・エレクマン=シャトリアンなど、作品の刊行にからんでなんらかの形で世話になった作家たちは枚挙にいとまがない。エッツェルの生涯をたどることは、十九世紀のフランス文壇を縦断するに等しいといっても言い過ぎではないだろう。・・・・本書では、名編集者エッツェルが果たした十九世紀文化における影の演出者としての役割に注目して、エッツェルが関係した大作家たちのプロフィール、エッツェルが駆け抜けた時代とともに、エッツェルの生涯を語ってみたい。(「序章」より)