紹介
「モデルネの美的陶冶理論」を求めて
〈芸術〉はいかに人間を形成するか。
古典的価値の崩壊、教育の大衆化に直面し、「現代(モデルネ)」に要請される「新しい人間」の創造を目指したバウハウス。
その思想と実践をつなぎ合わせ、ヴァイマル文化のなかに一つの<星座>を描き出す。
近代的価値観の崩壊により、多様な思想・文化が花開いたヴァイマル共和国時代。
バウハウスでは、芸術を媒介にした人間形成を目指す「感性教育」が試みられていた。
本書は、美を深く体験することにより身体を調和させ、共感覚を活性化させる教育を「シンボル生成」の感性教育と位置づけ考察を加えていく。
その音楽・美術・哲学・心理学・生物学が融合した学際的な姿を捉えるため、中心地であるバウハウスとハンブルク大学の教育者・研究者、そしてパウル・クレーの実践を、思想史の手法を用いて辿る。
複雑に絡まりあったヴァイマル文化の芸術教育を基礎づけているものを「モデルネの美的陶冶理論」として提示し、「人間形成(ビルドゥング)」における美の可能性を問い直す力作。
目次
序 章 美的経験・芸術経験と陶冶(人間形成)
1 十八世紀の「陶冶」構想
2 十九世紀ドイツ社会における「陶冶」
3 二十世紀ドイツ社会における「陶冶」と美的経験・芸術経験
4 本書の構成
第一章 ヴァイマル・バウハウスの音楽教師ゲルトルート・グルーノウ
――「アメリカ的なもの」と「インド的なもの」のあいだで
1 グルーノとは誰か
2 「感性調和化論」
3 「新しい人間」の形成をめぐって
第二章 グルーノウ音楽教育の理論的背景
――「音の響き」と「色彩」の感受としての美的経験
1 声楽教育実践(レムシャイト時代)
2 「感性調和化論」の再構成
3 「共鳴体(Klangkörper)としての身体形成
4 トーヌス理論(Tonustheorie)
5 「シンボル生成」の場――「共鳴体としての身体」
6 「共感覚」としてのシンボル生成
第三章 「シンボルの受胎」としての「共感覚」
――ハンブルクのグルーノウ、ヴェルナー、カッシーラー
1 狭義の「共感覚」と広義の「共感覚」
2 第一次「共感覚」ブーム
3 なぜ「共感覚」は魅力的だったのか
4 グルーノウとヴェルナーの「共感覚」共同研究
5 カッシーラーとヴェルナー
補論 ハンブルクにおける心理学研究の展開
1 エルンスト・モイマンの時代(一九一一― 一九一五)
2 過渡期の心理学実験室(一九一五― 一九一八)
3 ハンブルク大学草創期(一九一九― 一九二二)
4 一九二二― 一九二五年の研究教育活動状況
5 一九二五年から一九三三年までの心理学研究
6 終わりに
第四章 「あいだの世界」の心理学
――ヴェルナー心理学を陶冶理論として読む
1 哲学的心理学者ハインツ・ヴェルナー
2 共感覚の実験と理論――事物が「モノ」となるとき
3 言語相貌学――言葉が「モノ」となるとき
4 「あいだの世界」の心理学
第五章 「あいだの世界」の探求者パウル・クレー
――子どもの描画と言語発達への関心からの考察
1 子どもの絵とパウル・クレー
2 「芸術の始源」
3 グスターフ・ハートラウプ
4 「フェーリクス・カレンダー」
5 「あいだの世界」への入り方
第六章 ヴァイマル共和国期美術教育の展開とその思想的背景
――再現・表現・造形をめぐって
1 先行研究の検討
2 時期区分
3 各時期の美術教育思想
4 「形のバイオ・フィジックス」という造形理論の可能性
第七章 「あいだの世界」の美術教育
――エルヴィン・ヘックマンの美術教育実践
1 生涯
2 ヘックマンの美術教育実践
3 素材、直観像、ファンタジー
4 ヘックマン美術教育の位置づけ
第八章 モダニズム造形教育の行方
――ガイストとエーアハルトの美術教育実践
1 フリードリヒ・ガイスト(一九〇一― 一九七八)
――モダニズムとフォルクのあいだで
2 アルフレート・エーアハルト(一九〇一―一九八四)
――モダニズムの芸術教育
3 ガイストとエーアハルトの造形教育論の位置づけ
終 章 モデルネの美的陶冶理論
1 「新しい天使(Angelus Novus)
2 「非人間(Unmensch)」
3 「非人間」の「人間性」
4 「ムネモシュネ・アトラス」と残された課題
あとがき
初出一覧
参考文献
註
索 引