目次
もくじ
プロローグ
第1章 普通の仕事。
生きていくためにやっている、どこにでもある仕事。〈貝塚 北出新司さん〉
第2章 一番ひどかったのは、力の入れ方をまちがって、
ナイフで自分のはらを刺してしまったときです。〈南港市場 Kさん〉
第3章 毎日、なにか改良を加えていきたいんですよ。
かたい頑固な頭じゃなくて、新しいものを取り入れるやわらかい頭でね。〈南港市場 村上悟朗さん〉
第4章 今でもこの職業は、世間に堂々と発表できる、
そういう種類の仕事ではないという気持ちが、私にはあります。〈南港市場 河合一夫さん〉
第5章 自分たちの仕事は、牛や豚を捌いて食肉や皮にして、
世の中の人に手渡すことなんです。〈南港市場 Tさん〉
第6章 お肉は食べるけれど、それがどうやってでき上がってくるかを
知らない人がほとんどなんですよ。〈芝浦と場 Mさん〉
第7章 私らの仕事は、特別にほめられることでもなく、けなされることでもない。
普通の仕事なんだから。〈芝浦と場 栃木裕さん〉
第8章 殺すということだけにこだわってしまうから、
そこで仕事をするすべての人が傷ついてしまうんだよ。〈横浜市場 鈴木正敏さん〉
第9章 店のお客さんにお肉がおいしかったと言ってもらったら、
その牛の顔が浮かびますもん。〈貝塚 北出昭さん〉
エピローグ
前書きなど
2003年に絵本の仕事で、食肉市場へ取材に行った。
食肉市場というのは、生産者(食肉用の動物を飼い育てている人)から持ち込まれた牛や豚を、屠畜して枝肉・皮・内蔵などに分けて、衛生検査を受け、せりで取引され出荷されるまでの役割をになっている。
中略
私の目の前で、大量の血を流して横たわっていたのが牛なら、私の胃袋の中に収まったのも牛である。
あの巨大な生き物の牛と、ステーキの牛肉とが、とても同じとは思えなかった。なぜだろう。
その答えを求めて作ったのが、『きみの家にも牛がいる』(文:小森香折 解放出版社刊)という絵本だった。その中でこう書かれている。「肉ははじめから『ある』ものじゃない。いろいろな人の手をかりて『つくられる』ものなんだ」と。
生きた牛が、なんの手も加えられずに牛肉になって、スーパーで売られて、私たちの食卓にならんでいるわけではない。
私たちが普段の生活で当たり前に食べているお肉は、もともとは生きた動物の肉体であって、精肉業という職についた人の手によって、食べ物になっている。
そのことが食肉市場ほどよくわかる場所はないと思う。
この本は、食肉業についている人たちのインタビュー集である。彼らに仕事についての思いを語ってもらった。この職についている人が、公に仕事の内容を語ることは、残念ながら多くはないし、メディアもそうは取りあげない。世間もなかなか理解しようとしない。それどころか、誤解したイメージを、いつまでも捨てようとしないのが本当のところだ。
彼らの仕事がなければ、私たちは牛肉も豚肉も食べることができない。私たちは毎日、いろんな場所でお世話になっているのに。
インタビューの中で何人もの職人さんが、屠畜という職業に対する思いや喜び、悩みを包み隠さずに話してくれた。
その内なる気持ちが、今晩、お肉を食べる前に、少しでも伝わってほしいと思う。