目次
第1章 この本について
第2章 現代に打ち込まれた楔
第3章 言葉と人々
書記という職業については何がわかっているのか
神々
1 占い――未来を予測
2 呪術と医学
3 幽霊
最後に
アッカド語からギリシャ語へ
第4章 洪水物語
〈シュメールの洪水物語〉
アッカド語の「アトラ・ハシース物語」
「アトラ・ハシース物語」の洪水物語
『ギルガメシュ叙事詩』の洪水物語
ベロッソスの著作に登場する洪水物語
コーラン
箱舟の書板
第5章 箱舟の書板
第6章 洪水の予告
壁に語りかける
箱舟の原型
第7章 箱舟の形
古バビロニア版「アトラ・ハシース物語」
新アッシリア・スミス版「洪水物語」
網代舟としての箱舟
創世記のノアの箱舟
ベロッソスの箱舟
コーランの箱舟
第8章 箱舟をつくる
1 〈箱舟の書板〉の箱舟をつくる
アトラ・ハシースの箱舟をつくる
2 ウトナピシュティムの箱舟
第9章 舟に乗せられた生き物
「アトラ・ハシース物語」の動物たち
ノアの箱舟の動物たち
「アトラ・ハシース物語」の動物のすべて
ノアの動物たち
第10章 バビロンと聖書の大洪水
比較する意義
第11章 ユダ人の経験
なぜユダ人はバビロンにいたのか
ヘブライ語での国の記録
バベルの塔――バビロンを目の当たりにしたユダ人
バビロンと出会ったユダ人――移住、文化、筆記術
おわりに
第12章 何が箱舟に起こったのか
聖書のアララト山
アッシリアのニツィル山
イスラムのジュディ山
商売に利用する
結論
第13章 〈箱舟の書板〉とは何か
第14章 結論――洪水物語と箱舟の形
第15章 円形の箱舟、あらわる
建造
夢を実現させる
瀝青用のローラー
動物
進水
その後、考えたこと
補遺1 亡霊、魂、輪廻
補遺2 〈ギルガメシュ第.書板〉を精査する
補遺3 箱舟建造 技術報告書
補遺4 〈箱舟の書板〉を読む
注
参考文献
謝辞
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
(…前略…)
考古学や古代研究に向けられている一般的な期待は、例えば俳優のハリソン・フォードを通して表現される冒険心によって満たされるわけでは必ずしもない。不可能と思われるようなテーマに新しい(科学的な)切り口で接近しようとする試みはそのものとしては興味深いが、その過程で当初の目的から大きく外れていることも多い。むしろ逸れていった先にはるかに大きな別の可能性が示されていることもあるだろう。センセーショナルに扱われることの多い「ノアの洪水」「箱舟」をめぐる探訪は「聖書の記述をもとにすれば……」という一定の留保をもって進められる。しかし、十分に信頼できると思われる前提の蔭にこそ、突破の糸口があることを本書は示している。もっとも、これは見つけようとして見つけられるものではない。本書でも多くの偶然が語られている。ひとつひとつは小さい偶然のあつまりが〈箱舟の書板〉という縦糸の出現によって大きな物語を織りなしていく。華やかな大発見よりも、小さな発見が既成の概念を大きく変えるときの方が喜びは大きいかもしれない。〈箱舟の書板〉には「実寸で」その再現を試みる冒険心という派手なオマケはついてくるが、その書板からもたらされたのは既存の設計図の「正しい」読み方という小さな事実だけである。それによって、様々な関連事項に新しい解釈の可能性が示され、古びて見向きもされなかったような既成の説明に新たな一文が書き足された。そして、もう一度すべてを語り直すために著者のフィンケルはペンを執ったわけである。
(…後略…)