目次
序章 戦争と植民地支配の責任に関わる出来事を振り返る(一九九一~二〇一〇年)
I 戦争と植民地支配をどう記憶するか
箕面市遺族会は憲法にいう宗教団体である──箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟最高裁判決を聞いて
政教分離原則、司法は厳格に
戦争の反省を欠く政教分離の解釈
十七県議会の戦没者追悼決議に疑問
戦後日本の歴史意識と韓日関係
日韓歴史教科書対話の報告書を読んで
自衛隊幹部の政治的発言──田母神論文が問いかけるもの
過去の自己の戦争責任を忘れさせてくれる言葉の魔術
II 首相の靖国参拝は何を意味するか
橋本首相の靖国参拝と「私の心の中の靖国」の意味
靖国神社とは何か
知られていない靖国神社の歴史認識
III 国際社会の中の日本
国連は公正か、過信は避けよ
日本は国連PKOに参加してよいか
イラク戦争と言葉の魔力
憲法「改正」の動きの背景──問われる日本の選択
IV 平和運動の中で
韓国の戦争犠牲者遺族と日本の遺族
「忠魂碑が崩れるのが見えるんだ」──神坂哲さんを想う
原告の一人として──小泉首相靖国参拝違憲訴訟での陳述書
現場で心に刻んだ不戦の誓い──小川武満さんを送る
溝口正さんを偲ぶ
私の歩み──戦没者の遺児として
初出一覧
前書きなど
序章 戦争と植民地支配の責任に関わる出来事を振り返る(一九九一~二〇一〇年)
本書は一九九一年から二〇一〇年までの二十年間の日本の戦争責任に関わる出来事についてその都度論じたエッセイを集めたものである。振り返ってみると、この間に国内・国外に起きた出来事による政治状況の変化の大きさにあらためて驚くとともに、他方でそれにもかかわらず基本的には変化していない事態もあることに気づく。変化していない事態とは、戦争と植民地支配の責任の認識の問題である。本書のどの文章もその両面を考察している。まず、本書の内容を理解していただくために、この二十年間に起きた戦争と植民地支配の責任に関わる出来事の概略をたどってみることにしたい。
(…中略…)
以上、二〇一〇年までの二十年間の重要な出来事を概観してきたが、これらの出来事の中に日本の過去の戦争と植民地支配の責任の問題が形を変えながらたえず浮き上がってくることが明らかになった。このような出来事は今後もさまざまな形で現れてくるにちがいない。私たち日本人は政治と社会のさまざまな問題に直面するさいに、日本の過去の歴史に対する姿勢と対処を明確にすることのないまま、未来へと進んで行くことはできない。自国の過去の歴史を適切に記憶することはけっして後ろ向きの思考にこだわることでも、ましてや自国の恥を自虐的にほじくり返すことでもない。それは私たち日本人が未来へ向かって生きていくさいの指針となるのであり、国際社会において日本が諸外国の人々と平和で友好的な関係を築いていく上での確かな基盤となるのである。戦争と植民地支配の歴史を記憶し続けることはけっして、一部の人々が言うように、若者から日本人としての誇りと自信を奪うことにはならない。むしろ自国の歴史を正しく記憶することこそ、国内および国際社会における責任の自覚を通して、諸外国の人々の信頼を得、私たち自身に真の自信と勇気を与えることになるのである。