目次
はじめに
第1部 NGOが抱えるアクターとしてのジレンマ
第一章 なぜ、NGOは政治性と非政治性の狭間でゆれるのだろうか?(金 敬黙)
──アドボカシー戦略とメディア表象の分析を中心に
コラム1 NGOと大学(金 敬黙)
第二章 国際協力の矛盾(鈴木直喜)
──企業戦士になるNGO実務者
第三章 国際協力NGOのバランシング・アクト(溝上芳恵)
——受益者・ドナーと組織のジレンマ
コラム2 NGOの運営(溝上芳恵)
第2部 現場からの発信
第四章 現地社会はNGOをどのようにみているのか?(福武慎太郎)
——ローカルスタッフの雇用・管理に関する問題を事例に
第五章 東ティモールの復興開発過程における現地NGOの役割(亀山恵理子)
——ハック協会の事例から
コラム3 NGOと援助機関の連携(亀山恵理子)
第六章 民主化支援の逆説(山田裕史)
——カンボジアにおける国際選挙監視を事例に
コラム4 学生NGO(上村未来)
第七章 「フェア・トレード」という名において(金丸智昭)
コラム5 現地スタッフとのコミュニケーション(金丸智昭)
第3部 ガバナンス時代におけるNGOの位相
第八章 地雷廃絶運動の「成功」から成功へ(林 明仁)
——ポストオタワにおけるJCBLの存在意義
第九章 地雷禁止条約の弱点を補完するNGOの役割(長 有紀枝)
——ICBLと「ランドマインモニター・レポート」を事例に
コラム6 NGOと専門性(長 有紀枝)
第一〇章 国際人道支援活動の調整(多田 透)
——学術研究の特徴と課題から垣間見える実践
コラム7 模索しつつ、アンテナを張り……(多田 透)
ブックガイド
あとがき
前書きなど
はじめに
現在、NGO(Non Governmental Organization:非政府組織)という言葉の意味は実に多様で、これがどのような団体を指すのかは、ひとことで言い表し難い(第1部各論文を参照)。しかし、日本では、非営利でかつ国際問題に何らかの関心を持って取り組む——たとえば海外の人々の暮らしを支援したり、あるいは地球規模の問題に取り組んだりするなど——団体を指すことが多い。そこで本書では、こうした特徴を持つNGOのことを、とくに国際協力NGOと呼ぶ。
国際協力NGOを取り巻く環境の変化とともに、NGO自体も、とくに一九九〇年代から多様化が進んでいる。環境の変化としては、たとえば冷戦の終結や情報技術の発達、そしてそれらにともなうNGOに対する関心の高まりがある。NGO自体も、従来の「草の根」的で、ボランティア精神で取り組むというスタンスを保持する場合もあれば、ある団体は国家や社会までをも変革する運動の担い手として台頭しつつあり、またある団体は大学院などで高度に専門的なスキルを身に付けたスタッフを多く擁するプロ集団になりつつある。
こうした一連の変化のなかで、私たちは国際協力NGOをどのように捉えればよいのだろうか。その疑問に答える手がかりになればとの思いから、本書は執筆された。
本書の執筆者は、おもに一九九〇年代以降に国際協力NGOの活動に関わった経験があるか、現在もNGOスタッフとして活動に携わっている。それと同時に、大学教員あるいは大学院生としてNGO研究を行っているという側面も持つ。つまり、実践と研究の双方に携わっていることが、本書の執筆者に共通する特徴である。また、執筆者の専門分野は国際関係論、文化人類学、地域研究、国際法など多岐にわたり、様々な学問領域から国際協力NGO論のフロンティアに挑んでいるのが本書の特徴である。
本書は以下のとおり、三部構成である。
ある程度の一般化が許されるとするなら、国際協力NGOは、何らかの国際問題を解決するというある種の「使命」を持って活動するアクターだと言ってよい。ところが、実践上、自らの活動がその使命と矛盾してしまうような状況に陥ることがしばしばある。そうしたジレンマの一端を描き出すのが第1部である。第一章の金論文は、新聞報道などのメディア分析を取り入れながら、日本における国際協力NGOが、その使命を達成するうえで、なぜ政治性と非政治性との狭間でゆれるのかを明らかにしている。第二章の鈴木論文は、開発NGOの使命を、効率至上主義からもたらされる問題の軽減や解消と捉えた場合、自らの組織内に効率至上主義を内包してしまっているという矛盾を描き出し、それを乗り越える術を提示している。第三章の溝上論文は、日本の国際協力NGOを鳥瞰しつつ、それらが受益者とドナー(出資者)との間でバランシング・アクトを演じていると捉えて、モデル化を試みている。
国際協力NGO論は、実践が直面する現実と無関係には決して成り立たない。よって、活動現場でどのような現実が繰り広げられているのかを知り、考察せねばならない。第2部は、国際協力活動の現場で直面する現実がいかに多様であるかを気付かせてくれる。第四章の福武論文は、NGOの内的動態に注目しているが、現地事務所におけるローカル・スタッフの雇用・管理体制をめぐる議論を事例として、支援対象である東ティモールの人々と日本人スタッフのNGOの理解の相違について考察している。第五章の亀山論文は、現地NGOの視点から紛争後の東ティモールにおける復興開発支援の問題について考察を試みている。第六章の山田論文は、カンボジアで国際選挙監視に関わった自身の経験をもとに、制度化された選挙監視支援が非民主的な政権に正統性を与えてしまう危険性を指摘することを通じて、民主化支援の逆説を考察している。第七章の金丸論文は、近年注目されているフェア・トレードについて、これを経済のグローバル化に対抗する運動と捉える従来の考え方が自己矛盾に陥っていることを指摘し、これを商品加工工程(商品連鎖)に人々の目を向けるという意味でのガバナンス作用として捉える視点を提起する。
国際協力NGOの数の増大は、不可避的にNGO間のネットワーク形成、そして国家や国際機関との協力関係を拡大・深化させている。第3部は、そうしたトランスナショナル・ネットワークやグローバル・ガバナンスの動向に焦点を当てている。第八章の林論文は、一九九七年のオタワ条約締結後も地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)が存続していることに着目し、ネットワーク型NGOにとっても、使命の達成(成功)がいかに重要かを描き出す。第九章の長論文は、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)が、地雷禁止条約の履行過程において、国家の役割をどこまで補完し、いかなる限界を有するかを、国際法の視点から検討している。第一〇章の多田論文は、国際人道支援活動における参加アクター間の活動の「調整」に注目し、先行研究を整理してその特徴と課題を提示するなかで、この分野におけるNGOの役割の重要性を指摘する。
私たちが主として想定する読者は、国際協力NGOについて深く学びたい、さらには国際協力NGOで将来働きたいと考えている次世代の人々である。もちろん、前記の想定に当てはまらない方々にも広く読んでいただけることを希望している。
編著者一同