目次
まえがき
第一部 放浪の始まり
第二部 新嘉坡の別れ
第三部 モンマルトルの別れ
第四部 厳しいパリ
第五部 ヨーロッパ離れ離れ
第六部 女流作家誕生
第七部 『鮫』の衝撃
第八部 南方の旅、再び
第九部 戦時下のふたり
第十部 「寂しさの歌」
短いエピローグ
あとがき
前書きなど
高校生のときにフランス語を学びはじめ、大学ではフランスの象徴派詩人ステファヌ・マラルメを研究対象に選んだ私は、かならずしも日本の詩のよい読者ではなかった。そんななかの数少ない例外が安東次男の詩だった。
第二詩集『蘭』(一九五一年、月曜書房)を、神保町の古書店で見つけたのは高校二年のときで、小遣いの二、三カ月分はしたと思う。その後も小遣いをためては、第一詩集『六月のみどりの夜わ』(一九五〇年、コスモス社)、第三詩集『死者の書』(一九五五年、ユリイカ)を手に入れた。安東の詩は言葉の意想外の組み合わせで、近代の抒情詩につらなる魅力を生み出していた。
その安東が推奨してやまないのが金子光晴だった。安東は、フランスの詩人ルイ・アラゴンやエリュアールが、対独レジスタンスのなかで書いた詩を中心に論じた『抵抗詩論 詩の創作と実践のために』(青木文庫)を一九五三年に出版し、その翌年には金子光晴との共著で、『現代詩入門 詩をつくる人に』(青木新書)を出した。これが私が金子の文章に触れた最初だった。このときから、金子光晴の状況を鋭く突いた詩に魅せられることになった。(あとがきより)