紹介
19世紀半ば〜20世紀初頭の女性作家の作品に鮮やかに生きる「女詐欺師」たち。
「家庭小説」のヒロインから「新しい女」まで、伝統的コンフィデンス・マンとの対比で浮かびあがるコンフィデンス・ウーマンの肖像。
経済的自立を果たそうと苦闘した女性作家のジャーナリズムとの関係と、メディア空間に生きたヒロインたちのだましの戦略と主体を分析する。
■主に取り上げる作家・作品■
E.D.E.N.サウスワース
『見えざる手』(1859)
ハリエット・ビーチャー・ストー
『アンクル・トムの小屋』(1852)
ルイザ・メイ・オルコット
「仮面の陰で」(1866)「V・V」(1865)
シャーロット・パーキンズ・ギルマン
『ベニグナ・マキャヴェリ』(1914)
イーディス・ウォートン
『国の慣習』(1913)
目次
■序章 元祖アメリカン・コンフィデンス・マン
1 報道された新語
オリジナル・コンフィデンス・マン
トンプソン事件とメルヴィル、ほか
2 行商人からコンフィデンス・マンへ
スリックの詐欺商売
ヤンキー行商人、旧南西部を行く
メルヴィルのコンフィデンス・マン、行商人になる、ほか
3 詐欺師たちのいる空間
フロンティアという空間
野外集会の対決、ほか
4 アメリカン・コンフィデンス・マン
アメリカ人の特質
悪漢・間抜け・天才
■第1章 女詐欺師の登場する風景
〜サウスワース『見えざる手』
1 キャピトーラ、コンフィデンス・ウーマン
コンフィデンス・マンからコンフィデンス・ウーマンへ
女性小説と女詐欺師
2 『レジャー』紙とサウスワース——その人気の秘密
新しい読者と物語新聞の経営戦略
小説の大量生産、ほか
3 ニュー・ヒロインからコンフィデンス・ウーマンへ
ジェンダーをこえるヒロイン
「女らしくない」ヒロインを描く戦略
「おてんば娘」の原型
4 コンフィデンス・ウーマン出現の背景
現代にも通じる魅力
極限状態を生き抜くための詐欺行為
男性詐欺師との違い、ほか
5 「黒い」コンフィデンス・ウーマン
黒いアリュージョン
ジェンダーをこえる闘い
女性解放と黒人解放
■第2章 奴隷制に打ち勝つ屋根裏の女詐欺師
〜ストー『アンクル・トムの小屋』
1 ストーのコンフィデンス・ウーマン
混血奴隷の女詐欺師
家庭小説と抗議小説、ほか
2 「男の領域」と「女の領域」
男のビジネスとしての奴隷制
「女の領域」を侵食する奴隷ビジネス、ほか
3 女の力による社会変革
家父長制と対立する母性
女の価値観の総体、ほか
4 混血奴隷の詐欺戦略とその意味
歴史を総括するゲーム
死んだ女性たちとの連帯、ほか
5 新聞連載小説から女性向け単行本小説へ
文学市場を意識した作品
読者に受け入れられる「悪女」
ハッピー・エンドの演出
■第3章 女の職業としての詐欺師
〜オルコット「仮面の陰で」「V・V」
1 オルコットのコンフィデンス・ウーマン
一人生き抜くための詐欺、ほか
2 オルコットと大衆週刊新聞
センセーショナル小説の枠組み
大衆作家に対するアンビヴァレンス、ほか
3 女が働くということ
生計を立てるための演技
「幸せな女性たち」と自活の厳しさ
白人中産階級女性にとっての仕事
階級とジェンダー、ほか
4 女が詐欺を働くとき
女ゆえの詐欺
「家庭の天使」を演じる
労働と階級
5 「悪女」になる理由、「悪女」を描く理由
キャリアとしての詐欺
権力の逆転
作者のペルソナとしてのコンフィデンス・ウーマン、ほか
■第4章 「新しい女」の模範を示す詐欺師
〜ギルマン『ベニグナ・マキャヴェリ』
1 ギルマンのコンフィデンス・ウーマン
「新しい女」出現の背景、ほか
2 ベニグナ・マキャヴェリ、コンフィデンス・ウーマン
家族を救うための詐欺
父親を排除するゲーム、ほか
3 「不自然な娘」の改革
家長の苦しみ、ほか
4 人権を侵害された少女から「新しい女」へ
ジェンダーをこえる能力
女性版ハック・フィン、ほか
5 若い「普通の」女性のための文学
「男性化」した文学への挑戦
読書によって学ぶ能力、ほか
■第5章 ヨーロッパを征服するアメリカン・コンフィデンス・ウーマン
〜ウォートン『国の慣習』
1 ウォートンのコンフィデンス・ウーマン
「新しい女」の古い生き方
アメリカ的成功物語の女性版、ほか
2 ビジネス・ウーマンからコンフィデンス・ウーマンへ
「多彩で変わりやすい」ということ、ほか
欲望とアイデンティティ
3 「国の慣習」への復讐
「女の領域」における出世ゲーム
出世ゲームにおけるジェンダー、ほか
4 「アメリカン・ビューティ」のヨーロッパ攻略
アメリカの慣習を盾にヨーロッパへ
アメリカン・ガールのヨーロッパ征服、ほか
5 社交ジャーナリズムの女旗手
情報を売るセールス・ウーマン
社交ジャーナリズムの興隆
ジャーナリズムによる自己演出
アンディーンはゲームのほんとうの勝利者か、ほか