目次
はじめに
第一章 朝鮮通信使をむかえた日本人
1 通信使にさきだつ時代の交流の中で
無涯亮倪・宗金・足利義持
2 秀吉政権下の朝鮮通信使
宗義智・豊臣秀吉
3 探賊使松雲大師惟政と出会った人びと
加藤清正・景轍玄蘇・西笑承兌
4 国交回復と幕府草創
徳川家康・徳川秀忠
5 対馬の苦悩と策略 国書偽造事件
規伯玄方・柳川調興
6 朝鮮通信使号の復活と大君
徳川家光・林羅山
7 天和度の通信使をめぐる人びと
徳川綱吉・徳川光圀・木下順庵・狩野常信
8 筑前藍島での文人交流
貝原益軒
9 「外交の主体性」の確立をめざす
新井白石
10 美濃路の名医
北尾春圃とその子息たち
11 京都相国寺慈照院僧
別宗祖縁
12 異色の将軍、江戸城へ
徳川吉宗
13 光っていた異文化認識の目
雨森芳洲
14 仁斎の古義学を伝える
伊藤梅宇
15 大坂の画壇と文人たち
大岡春朴・木村兼葭堂
16 近江守山宿と東門院守山寺
宇野春敷・宇野禮泉
17 通信使に出会った少年・少女とその後の画家
葛飾北斎・円山応震ほか
第二章 朝鮮通信使の再検証
1 近世初期の対外関係
——「朝鮮征伐」史観と「鎖国」史観を越えて
2 「日本神国」思想と東アジア華夷秩序の中で
——中世までの朝鮮観
3 東アジア善隣外交の枠組み
——近世前期の朝鮮観
4 多文化共生論のめばえ
——近世後期の朝鮮観
5 メディアとしての朝鮮通信使
——近世日本の対外情報政策
6 朝鮮文化の理解と記憶
——相互蔑視から相互理解へ
第三章 地域文化と朝鮮通信使
1 朝鮮通信使とその旅
——交流の中の苦難の長旅
2 朝鮮通信使と唐人踊り
——対舞と祭礼行列
3 藍島の朝鮮通信使
——麗しの友好の島
4 堺と朝鮮通信使
——秀吉侵略下の使節団
5 近江路の朝鮮通信使
——東アジア不戦と文化交流の回廊
6 美濃路の朝鮮通信使
——豊かな有形・無形の文化財遺品
付論 松雲大師惟政研究と訪日活動の意義——壬辰倭乱研究の新視点
初出一覧
おわりに
江戸時代の朝鮮使節一覧表
朝鮮通信使および中・近世日朝関係史文献目録(一九九五年〜二〇〇六年八月)
索引
前書きなど
はじめに
本書に収めた論考はここ数年の間に書いた雑誌掲載の評論や講演、または韓国での開催を含む各地のシンポジウムでの報告などをまとめたものである。学術論文は含まれていない。その後も朝鮮通信使に関わる各地で次々と新たな史料の発見や発掘があり、また日韓両国での研究活動やシンポジウムの開催が相次ぐ中、より深い個別のテーマを立て、より具体的に論証し、また近世対外関係史の中での対朝鮮外交の位置づけや、近世知識人・民衆の朝鮮観を問い直すことが課題となりつつある。
本書はこのような朝鮮通信使研究をめぐる課題について、私なりにその時々にまとめあげ、また発言してきたものを次のように整理したものである。
第一章「朝鮮通信使をむかえた日本人」では人物に焦点をあて、通信使をむかえた、または出会った日本人がどのように通信使とその一行に接したか、ということを紹介した。上は将軍家から下は市井の画家まで、その身分や立場はさまざまだが、いずれの人物もそれなりの敬意をもって朝鮮からの使節に接していることがあらためて理解できるはずである。
第二章「朝鮮通信使の再検証」は、朝鮮通信使の研究が進むにつれて、近世日本の対外関係のありかたについて、いわゆる「鎖国」史観の克服を含めて再度の検証が必要であること、また中世以来の日本人の朝鮮観や「日本神国」史観について検討し、その文脈を整理する必要があること、また朝鮮通信使の来日という事実はどのような情報をもたらしたのか、また逆にどのような情報を通信使の一行に発信したのか、それらを通じて人々の朝鮮文化に対する反応や理解はどのようなものであったかを、概略的に述べた。
第三章「地域文化と朝鮮通信使」では地域での朝鮮通信使に対する関心が深まるにつれ、各地での通信使の事跡について、史料に則しながらより具体的な事実を確認してゆくことを心がけた。ここに述べたものは多くの史料の中から一端を利用しただけで、実は各地ともすでに少なからぬ史料が発掘されつつある。今後ともこのような作業を続けて関係各地の自治体史や学校教育、社会教育への寄与も進めなければならない。
本書は初めに述べたように一般向けの評論や報告を中心に編成したので、各所に論述や関連人物の重複がある、また漏れた人物や事跡も少なくない。とりあえず二〇〇六年中期の時点における問題提起としてご海容いただければ幸いである。