目次
はしがき
第1章 「政治」「国家」「法」
第2章 政治の本質と「科学的」見方・「哲学的」見方
第3章 「民主主義とは何か」はまだ確定していない
第4章 ヨーロッパは「国家はどうして必要か」を考えた
第5章 「見かけ」だけの近代憲法だった大日本帝国憲法
第6章 日本国憲法と近代民主主義の原理
第7章 近代民主主義の原理と現代大衆国家とのギャップ
第8章 ヒトラーは大衆民主主義の中から生まれた
第9章 死滅を待っている憲法九条
第10章 国家の安全保障の方法
第11章 核拡散と「国境を越えた万人の万人に対する戦争」状態
第12章 社会主義型民主主義の失敗
第13章 人権革命と「平和のための革命」
第14章 近代民主主義の認める基本的人権は狭すぎる
第15章 民主主義は平和と結びつくことによって発展する
第16章 国家の権限は再配分されなくてはならない
第17章 新たなる変革の時代
あとがき
前書きなど
はしがき
この本は『平和のための経済学——経済を知って平和や福祉のことを考えよう』(明石書店、二〇〇六年)の姉妹編です。ですから、この本も自らの頭で考え、その自分の考えに基づいて行動できる人間になりたいと考える若者のために書かれています。そこでこの本を書くに当たっても、この本を読んだ読者が政治に関する判断力を身につけられること、意欲さえあれば高校生にも理解できること、その二つを意識して書きました。
経済と違って政治に関しては、若い世代の皆さんも多くのことを知っています。新聞やテレビには政治的情報が氾濫しており、ですから皆さんは、ある意味で評論家のようにコメントできます。
しかしこの本は、そのような新聞やテレビの情報とは異なる論理を展開しています。その理由の一つは、新聞やテレビで語られる情報はあまりにも常識的すぎるからです。常識的すぎる知識では、世の中を変えることはできません。ただ批判し、批判するだけですべてが終わってしまうのです。また新聞やテレビで語られる情報では、何が幹か、何が枝か、何が葉かがまったく分かりません。何が幹か枝か葉かが分からないような知識でも、世の中を変えることはできないのです。世の中を変え、新しい世界を創っていくためには、物事の「幹」の部分——本質を捉える思考方法が必要です。問題の本質はどこにあるのか。問題を解決するには、どこを変えなくてはならないのか。そこでこの本では、まず第一に、政治に関する本質を捉えるための論理が追究されるのです。
この本の論理が新聞やテレビの情報とは異なる論理を展開しているもう一つの理由は、政治に関する本質という問題にも関連して、一般に言われる「民主主義」という概念を発展させなくてはならないと考えているからです。民主主義という言葉はあまりにも多くの内容を含みすぎており、しかも相手を黙らせるほどの絶対的価値を付与されています。そして新聞やテレビの情報は、このような民主主義という言葉であふれています。
民主主義という言葉には、本質規定が必要です。『平和のための経済学』でもその概要を述べているように、私は、民主主義の本質は「民衆の解放」と「民衆の支配」であると考えます。そして私は、その「民衆の解放」は基本的人権によって表されると考えています。
ところが、このように民主主義の本質規定を行うと、近代民主主義が認める基本的人権があまりにも狭すぎることに気づきます。例えば、近代民主主義では、財産を持たない人々の人間の尊厳と基本的人権は認められていませんでした。発展途上地域の人々の人間の尊厳と基本的人権は考慮の対象外でした。そして、すべての人間の尊厳性を否定しかねない戦争が残されていました。
私は、近代民主主義を発展させる必要があると考えています。そのためにまず必要なことは、平和(=戦争の苦しみからの民衆の解放)を民主主義に結びつけることでしょう。平和は民衆の解放にとって是非とも必要です。しかし、民主主義は平和の問題をまだその民主主義の内容の中に取り入れてはいません。平和と民主主義はまったく別の事柄としてあつかわれ、民衆の戦争の苦しみは放置されたままです。
民主主義を発展させる! 特に民主主義を平和の問題に結びつけて民主主義を発展させる!——それがこの本のテーマなのです。