目次
まえがき
はじめに
凡 例
注意 年の数え方について
王の年代記
第一部
第二部
注
人名辞典
1(第一部と第二部の07203まで)
2(第二部の07204以降)
付 録
1 本文中に使用されているクメール語の解説
2 訳語の原語リスト
3 付録2の原語からのリスト
系 図
1(第一部と第二部の07203まで)
2(第二部の07204以降)
前書きなど
まえがき
『カンボジア 王の年代記』は、18世紀以降、数代の王の命によって編纂されたもので、数多くのテキストがあり、建国神話に始まり19世紀に至るまでのカンボジア史を記述している。
この『王の年代記』は、カンボジア史、特にポスト・アンコール期を研究する上で重要な資料であるが、40種類以上が確認されているテキストのうちカンボジア国内に保存されていた写本の多くは、1970年以降20年以上にわたって続いた内戦期に所在不明となった。国外では主にフランスでテキストが保存されている。ポスト・アンコール期の研究は、海外資料や碑文を除くと、利用可能な資料が少ないことが障害となっており、研究者の数も少ない。この『王の年代記』は、後代に編纂されたものであることを考慮して扱わなくてはならない資料であるとはいえ、近年の研究で批判の多い「フランス植民地期に構築されたカンボジア史」以前の国内資料として貴重であることにかわりはない(詳しくは、北川香子「カンボジア年代記」池端雪浦他編、早瀬晋三・桃木至朗編集協力『岩波講座東南アジア史〈別巻〉東南アジア史研究案内』岩波書店、2003年を参照)。
本書は、この『王の年代記』のテキストのうち、1878年にnava rataneyya王子によって編纂されたnava rataneyya本の、バンコクにあるタイ国立図書館所蔵の写本を全訳した後、訳者によって、詳細な訳注、人名辞典、事項辞典、及び系図を作成し、付加したものである。
本書の原本は、nava rataneyya王子が、過去の年代記に対し、神話部分及び各事項の細部を加筆することによって、神話時代と歴史の双方をおさめた完全な年代記を編纂しようとしたものである。テキストは、建国神話に始まり、アンコール王朝がシャムに滅ぼされ、その後シャムとベトナムの間で翻弄される歴史を述べている。
原書は手書き写本であり、文字そのものが判読しがたい上に正書法も不統一で、カンボジア人を含む大多数の研究者にとって、利用しやすい資料であるとは言いがたい。本書は、先に訳者の手でテキストと共に刊行した『カンボジア年代記KWIC索引』(坂本恭章編、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、1995年)も参照しながら、あくまでも原文に忠実な翻訳を行った後、訳注、本文をもとに作成した人名辞典、事項辞典(日本語からと原語からの双方)、系図を用意することにより、本書を資料としたカンボジア研究が可能となるようにしたものである。本書の価値は第一に正確な翻訳にあるが、カンボジア国内にもカンボジアに関する事典が存在しない現状では、本書の翻訳文以外の部分によって、たとえば、訳注から、クメールの暦について、国名「カンボジア」の語源について知ることができ、人名辞典から、カンボジアでは広く知られた物語で映画の題材にもされている「マクワウリ王(Taa trasak ph?aem)」についての伝承を検索することができるなど、本書はカンボジアに関する有用な資料を、歴史研究者に対してのみならず、広く一般に提供することとなった。
本書は、独立行政法人日本学術振興会の平成17年度科学研究補助金(研究成果公開促進費:学術図書課題番号175083)の助成を得て出版に至った。出版を可能にしてくださった同会、翻訳と出版をお許しくださったタイ国立図書館、同館との連絡調整を引き受けてくださったタイ国立カセサート大学人文学部外国語学科助教授ソイスダー・ナラノーン先生、常に有益な助言をくださった東京外国語大学の岡田知子先生に心より感謝申し上げる。
2006年1月
編 者