目次
第一章 中華法系の略史
第一節 中華法系の法律思想
第二節 中華法系の形成と繁栄
第三節 中華法系の特徴
第二章 近代法制および法律の導入
第一節 法制近代化の模索
第二節 近代的法律の登場
第三節 中華民国の六法整備
第四節 共和国における法制整備の歩み
第三章 立法体制と立法手続き
第一節 国体と政体
第二節 立法体制における分権化傾向
第三節 全人大の組織構造および立法手続き
第四章 司法体制と審判制度
第一節 人民司法体制
第二節 裁判機関の独立審判
第三節 司法腐敗と司法改革
第五章 「訟棍」(三百代言)から「律師」(弁護士)へ
第一節 「訟棍」「訟師」の時代
第二節 弁護士制度の導入と曲折
第三節 現行弁護士制度について
第六章 刑罰の執行制度
第一節 刑罰の執行制度の略史
第二節 現行行刑制度の歩み
第三節 監獄の管理制度、行刑腐敗および対策
第四節 労働教養制度について
第七章 検察制度および法律監督
第一節 検察制度の概要
第二節 検察機関の職権
第三節 訴訟監督の是非
第八章 法学教育および司法試験
第一節 法学教育の略史
第二節 新中国における法学教育の歩み
第三節 法学教育のあり方
第四節 司法試験のあり方
第九章 憲法および刑事法律
第一節 憲法について
第二節 刑法について
第三節 刑事訴訟法について
第十章 民事関係法律について
第一節 民法がいつ制定されるか
第二節 財産権法
第三節 親族法と相続法
第四節 無体財産権法
第五節 民事訴訟法
前書きなど
本書はまさに上記のことを念頭に置きながら中国の「法治国家」を目指す過程および現状を検証しようとするものである。中国の法制・法治に対し、国内外を含み、二つの現象が見られる。まず、中国国内において、殆どの研究者は各種の事情で、中国の現状に対しクレームをつけ、特に厳しい批判を展開することが充分にできず、ややもすれば、中国の現状を肯定し、賞賛を惜しまない御用学者になってしまう。しかし、この現象はここ数年来大きく変化した。学者は自分の目で現状を見つめ、自分の頭で物事を考え、自分の口で意見を述べるようになり、中国の法制・法治に対し時に辛らつな口調で批判を展開するものが少なくない。これは中国の法制・法治の現状ないしその行方を観察するのに生き生きとした資料を提供してくれるのである。もう一方で、日本を含む諸外国において、中国の歴史上の「人治」社会の先入観にとらわられ、中国の法制・法治建設に目を向けず、その改善、進歩状況を認めない態度を取る傾向が見られる。ごく稀ではあるが、中国の法制整備、法治建設を共産党の生き残り策として一蹴する現象さえある。したがって、日本を含む諸外国に中国の法制・法治に関する書物が経済、政治等に関する書物と比べれば、九牛一毛の体を呈している。 中日両国の経済交流、人員往来のより密接な展開に伴い、両国の法人ないし自然人が巻き込まれるトラブルないし紛争がしばしば起きる時が訪れるであろう。中国の法制・法治の現状および問題点を理解しておかなければ、その事態を有効に解決し、また、それを未然に防止することはできまい。 日本の若者ないし一般的な読者が中国の法制・法治の理解に少しでも役立つために、本書は執筆にあたり、次のような工夫を試みた。まず、中国の法制・法治を「人治から法治へ」の動的過程として把握し、歴史のアプローチから分析を加えた。そのため、本書は中華法系の略史、近代的法制・法律の導入について二章を設け系統的にまとめたのみでなく、各種の法制度についてもなるべくその形成の背景、原因、時には挫折の歴史から叙述を始め、今日に至るまでの過程を動的に描こうとした。このようにすれば、中国法制・法治に存在する不備ないし欠陥、およびそれに至った原因を理解することに少しでも役立つであろう。次に、なるべく法制度の概要を分かりやすく説明し、その上、現状の問題点および改革または改善すべきところを指摘するように努めた。本書は中国の法制を立法体制、司法、特に裁判のシステム、弁護制度、行刑制度、法律監督制度、法学教育および司法試験制度と分けて説明を進めている。最後に、本書は中国の法制・法治に関する書物であるが、中国の法制・法治に対する理解の一助として、中国現行法律について公法と私法に分け、二章を設けごく簡単にその概要を説明しておいた。(「序論」より抜粋)