目次
1 パキスタンの輪郭
第01章 ゴッドファーザーの夢と現実…パキスタンの国名
第02章 前線国家、月世界、北極そして砂漠…パキスタンの位置・地理・気候
第03章 地域の歴史は国家の歴史に…歴史の流れ
第04章 活力の源となる多彩な民族…人々・民族・言語
第05章 「イスラーム国家」の三つの課題…パキスタンの政治事情
第06章 輝きを失ったかつての優等生…パキスタンの経済事情
2 宗教・社会・文化
第07章 さまざまな人々をつなぐ信仰…パキスタンのイスラーム
第08章 立春の風物詩、バサント…凧揚げの是非
第09章 イスラームの土着化…イスラーム神秘主義
第10章 中東・アジア諸国に囲まれて…イスラーム復興のネットワーク
第11章 パキスタンの宗教マイノリティー…クリスチャンの歴史と社会
第12章 女性が店に立つ…女性の社会進出のあらたな展開
第13章 シャルワール・カミーズで名物料理に舌鼓…パキスタンの衣・食・住
第14章 気ままな旅のすすめ…交通事情
第15章 匂いたつ花に囲まれて…冠婚葬祭
第16章 多言語社会をつなぐ…国語・ウルドゥー語
第17章 「パキスタン国民」をつくる…「小中学校教育」と国語教科書
第18章 学窓のさまざまなかたち…マドラサとLUMS
第19章 詩人と聴衆の宴…ムシャーイラ
第20章 オンライン版も花盛り…新聞・雑誌
第21章 ケーブルテレビと海賊版文化…電波メディアと映画
第22章 多様なる音楽世界…宗教讃歌からロックまで
第23章 クリケット休暇…パキスタンの国民的スポーツ
3 パキスタンを旅する
第24章 豊かな大地と歴史にふれる…パンジャーブ州
第25章 パキスタンから一五分…イスラマーバード
第26章 母なる河インダスが育んだ大地…シンド州
第27章 民族のるつぼ…カラーチー
第28章 パシュトゥーン人の土地…北西辺境州
第29章 中央集権を拒む人々…連邦直轄部族地域
第30章 飾らぬ客もてなしの部族法…バローチスターン
第31章 帰属未定の係争地域…カシュミールと北方地域
第32章 「風の谷のナウシカ」の里、それはパキスタンにあり…観光資源
4 政治・外交
第33章 多難な船出…建国の基本条件
第34章 歴史の半分は軍政下…民主主義と軍政
第35章 パキスタンは誰のもの?…政党と政治家
第36章 連邦に大きな権限あり…連邦制と州
第37章 揺れるイスラーム像…政治とイスラーム
第38章 国民と民族のあいだ…エスニック紛争
第39章 建国の功労者の反乱…ムハージル民族運動
第40章 美しい谷の長すぎる戦い…カシュミール紛争
第41章 がんじがらめの外交…インドの脅威のもとでの五〇年
第42章 裏切られてもすがりたい大国…対米関係
第43章 インドが持つならどうしても…核・ミサイル問題
第44章 戦いの果てにあるものは…アフガニスタン問題
第45章 難しい舵取り…イスラーム諸国との関係
5 経済
第46章 緑の大地の恵み…アジア最大の灌漑農業がかかえる問題
第47章 日本とは異なる農村社会の諸相…パキスタンの農村
第48章 財閥形成とダイナミクス…パキスタンの財閥
第49章 キリギリス型消費のつけ…財政赤字
第50章 経済効率回復への挑戦…民営活力の導入
第51章 アフガン難民…パキスタンの社会・経済に与えた影響
第52章 世界最大のデューティーフリー・ショップ…パキスタンの裏経済
第53章 祖国を離れてがんばる人々…中東出稼ぎ労働者たち
第54章 頭脳流出…海外で活躍するパキスタン人
第55章 草の根レベルの社会変革…NGOセクター
第56章 イスラーム少数派のリーダー…アーガー・ハーン
第57章 ワールドカップを支える街…シアールコート
6 日本とパキスタン
第58章 パキスタンの発展は日本の利益…日・パ五〇年の歴史
第59章 より身近な国となるために…日本—パキスタンの経済関係
第60章 お隣のパキスタン人…あらたな日・パ関係の時代へ
《編者以外の執筆者》
麻田豊/伊豆山真理/井上あえか/加賀谷寛/黒崎卓/鈴木千穂/中野勝一/子島進/萩田博/平島成望/深町宏樹/松村耕光/萬宮健策/萬宮千代/ムスタファ・アジズ/村山和之/森川真樹
前書きなど
パキスタンが建国されてすでに半世紀以上がたつが、日本とパキスタンは比較的良好な関係を保ってきた。第二次大戦後は、パキスタンから輸入する綿花が日本の経済復興に大きな役割を果たし、また近年では、日本は最大の援助国として、パキスタンの発展を支援してきた。 だが、日本とパキスタンの関係は、経済的なものにとどまらない。日本人のパキスタンへのかかわり方は、まさに人それぞれである。ガンダーラ美術に魅せられた人、歴史の教科書に載っているモエンジョ・ダーロやハラッパーの遺跡をみたいと願う人、「世界の屋根」と称される雪山に憧れる人、杏の花に囲まれた、北部の桃源郷に心を動かされる人、あるいは旧市街の喧騒に異国情緒をかきたてられる人、ムガル朝や英領期の建造物に目を見張る人など、パキスタンの魅力に惹きつけられる人々は少なくない。さらには、パキスタンを旅して、「メヘマーン・ナワーズィー」と呼ばれる、パキスタン人自身が誇る「客人歓待」の温かさにふれたことでパキスタンに興味を持った方々もおられるだろう。最近では、日本国内でも在日パキスタン人の姿が多くみられるようになり、彼らと結婚する日本人女性の数も増えている。このように日本とパキスタンは、さらに緊密な関係を築こうとしているといえよう。 しかし残念ながら、昨今の日本のメディアで紹介されているパキスタンのイメージは、決してよいものばかりとは言い難い。カシュミールでのインドとの対立、核実験、アフガン問題、テロなど、危険なイメージばかりがついてまわっているかのように思われる。だが、そのようなイメージだけでパキスタンを描くことは、非常に危険かつ有害である。 このような危険性は、9・11事件以後、一層強まった。この事件をきっかけに、パキスタンは世界の注目の的になった。ムシャラフ大統領は、アメリカの反テロ活動に協力する決定をくだしたが、パキスタンを舞台にターリバーンやアルカーイダ征伐を行う際に、日本を含む国際社会はパキスタンをどれほど理解していたであろうか。そして、理解不足のまま政策を遂行することがどれほど危険なことであるか、我々は十分に理解しているのだろうか。イスラーム社会対非イスラーム社会という、あまりにも単純な対立構図によって、この国をとらえていたのではないだろうか。こういった懸念が、日本のパキスタン研究者のあいだで高まってきた。 そこで、さまざまな角度から現在のパキスタンの姿を知ってもらおうと、六〇のテーマに分けて紹介を試みたのが、本書『パキスタンを知るための60章』である。(後略)はじめに 編者一同