目次
まえがき
———第一部———
第1章 歴史の舞台
第2章 ヘブライ族の起源
第3章 ヘブライ族のパレスチナ入り
第4章 民族意識の芽生え
第5章 王国の分裂
第6章 預言者——ヘブライの生ける良心
第7章 ユダヤ教の成立
第8章 聖書時代のパレスチナ——生活と労働
第9章 ヘレニズムとヘブライズム
第10章 ユダヤ人国家の最後
第11章 キリスト教の勃興
———第二部———
第12章 タルムードの発展
第13章 イスラム世界の登場
第14章 黄金のスペイン時代
第15章 悪夢の四世紀——キリスト教下のヨーロッパ
第16章 スペイン・ユダヤ人社会の興亡
第17章 難民の避難地
第18章 退化
第19章 中世世界のユダヤ人
———第三部———
第20章 ユダヤ人中世時代の終焉
第21章 中世の牙城落つ
第22章 リベラリズムの勝利
第23章 アメリカ・ユダヤ史の諸要素
第24章 ロシア・ユダヤ人の悪夢
第25章 変化するユダヤ文化と宗教
第26章 反ユダヤ主義の復活
第27章 シオニズム
第28章 サラエボからサンレモへ(一九一四−二〇)
第29章 戦争のはざま
第30章 二〇世紀の西半球
第31章 パレスチナ叙事詩
第32章 第二次大戦と戦後社会
第33章 新生国家イスラエル
付録
SELECTED BIBLIOGRAPHY
訳者あとがき(付:日本・イスラエル関係)
索引
前書きなど
本書はアブラム・レオン・ザハル著A history of the jewsの全訳である。初版はヒトラーが権力の座につく三年前にあたる一九三〇年三月に出され、以後第二次大戦勃発直後の一九四〇年、イスラエル独立直後の一九四八年、アラブテロが激しくなった一九五三年にそれぞれ改訂され、そして一九六四年に最後の改訂版が出された。 初版から最後の改訂版まで三五年が経過し、この間ユダヤ人はホロコーストから国家独立、すなわち民族絶滅の危機と民族再生を経験した。ユダヤ四〇〇〇年の歴史から見ると三十余年はわずかな期間だが、ユダヤ史を凝縮したような波乱にみちた時間である。(中略) 日本人とユダヤ人は、先の大戦で全く別の結論を引きだした。ユダヤ人は戦争と平行して起きたホロコースト体験によって、非道な扱いを受けても国際社会は現実を知ろうとせず、知っても口先のきれいごとをいうだけで、自分を守るには自分しかいないことを、身をもって知った。一方の日本人は、先に手を出した戦争で惨敗し、爾来自衛意志を放棄した。 これまでの歴史体験も全く違う。小さな移民集団は別として、日本の社会そのものが少数派として多数派のなかで存在したことはない。少数派はみじめである。多数派に囲まれていると、常に「偏見」と「アイデンティティー喪失の危機」にさらされる。この二つは表裏の関係にあり、ユダヤ人は二〇〇〇年も前から、これに直面してきた。 日本人がナイーブであるのは、この体験の欠如に由来するところ大である。島国から丸ごと流出したことがないので、問題の重大性が実感できず、万民平等のスローガンを鵜呑みにするのが関の山である。多数派社会に放りだされると、たちまち偏見にさらされ、アイデンティティー喪失の危機に逢着する。同化しようとしても、多数派からは亜流としてしか扱ってもらえない。 国際化という言葉は耳に心地よく響くが、解釈は慎重でなければならない。現在も少数民族の独立運動が絶えないのは、アイデンティティーの保持の必要性を痛感しているからである。人間の智慧は、多数派と少数派の関係が生みだす二つの問題を、まだ解決していない。少数派の文化や伝統が多数派のものと比べて劣るものではなく、そもそも各社会の特異性は優劣の尺度では測れないことを、少し認識し始めたところである。ユダヤ人の歴史体験には学ぶべき点が多々あるように思われる。訳者あとがき 滝川義人