紹介
風に紅葉(かぜにもみぢ)中西健治[校訂・訳注]
当代随一の貴人の大将(内大臣)は、
一品の宮と結婚、円満な夫婦生活を送るが、
一方で多くの女性との恋愛遍歴を重ねている。
また、異母兄の遺児の若君を発見し、溺愛、
最愛の妻に通じさせる。
ために一品の宮は懐妊。出産後、急逝する。
世の無情をはかなんだ内大臣は、
仏道修行に専念する。
むぐら(むぐら)常磐井和子[校訂・訳注]
女君は夫(大将)の継母から疎まれていることを悩み、
身を引く決意をし、宮中に妹の春宮の御息所を訪ねる。
たまたま女君を見そめた帝は、そのまま隠し据えてしまう。
大将は行方不明の妻を探し求め、
やがて宮中にいることを知るが、取り戻す術もなく、
悲嘆のあまり息絶える。
一方、女君は男皇子を出産、女院となって、
妹中宮ともども栄達を極める。
目次
凡例
風に紅葉(かぜにもみぢ)中西健治[校訂・訳注]
上巻本文
下巻本文
年立・系図・解題
むぐら(むぐら)常磐井和子[校訂・訳注]
本文 注
梗概・系図・解題
前書きなど
刊行に際して
院政期から鎌倉時代の間に成った王朝物語は、
『松浦宮物語』『石清水物語』『有明の別』その他、
現存作品だけでも二十八部の多きに達するにかかわらず、
最近まで一様に「擬古物語」という称を与えられて、
ひたすら平安朝物語の模倣作とされ、
読むに値しないものと見なされてきた。
従って、大部分はごく少部数の原典の翻字があるのみで、
現代語訳もほとんど刊行されていないのが現状である。
その結果、それらが一般の読者にまったく読まれなかったのは
やむを得なかったとしても、専門の研究者ですら、
この時期の物語の文体には特異な語彙や語法があるという点もあって、
右のような常識に甘んじて、
自ら作品を読み、研究を進める姿勢が乏しかった嫌いがあるように思われる。
これらの作品がこうしてひとしなみに継子扱いを受けてきた最大の理由は、
作品の内容にあるのではなく、
現代語訳がほとんど無かったという事実に由来するのである。
もし、今、それぞれに読みやすい本文を立て、現代語訳を添えることが出来れば、
これらの作品の面目は、世上俄に一新され、
その評価にも再検討が加えられるに違いない
———我々は、数年以前から期せずして、この一致した見解の元に準備を重ね、
同志を糾合して、「中世王朝物語研究会」を組織し、
市古貞次・三角洋一編『鎌倉時代物語集成』七巻の本文の完結に引き続いて、
ここに本全集を刊行することにした。
日本文学史の数少ない盲点の一つが、この全集によって明らかにされ、
それが広く読まれることで、
その評価も見直される日の近いであろうことを期して疑わない。
ここに、江湖諸賢のご支援を切に望むものである。
編者