目次
はじめに/山下清海
第1章 華人社会を知る
1 華人社会の見方と現状/山下清海
2 華人の歴史/合田美穂
3 華人経済の特色と発展/岩崎育夫
4 華人の政治と中国/田中恭子
5 華人の言語と教育/小木裕文
6 華人の宗教と社会組織/吉原和男
7 華人ネットワーク/陳天璽
第2章 日本の華人社会
1 日本の華人社会
(1) 日本の華人社会の歴史的特色/許淑眞
(2) 在日華人社会の民俗文化/曽士才
2 横浜の華人社会
(1) 横浜華人社会の形成と特色/伊藤泉美
(2) 横浜中華街──不易と流行──/曽徳深
(3) 横浜中華街から見えてくる華人文化/齋藤晃
3 神戸の華人社会
(1) 神戸華人社会の形成と特色/陳來幸
(2) 神戸南京町vs横浜中華街/岩井孝夫
4 長崎の華人社会
(1) 長崎華人社会の形成と特色/陳東華
(2) 長崎ちゃんぽん物語/陳優継
5 変容する日本の華人社会
(1) 日本の新華僑華人/段躍中
(2) 公共住宅団地に集住する新華僑──埼玉県川口芝園団地──/江衛
(3) 「池袋チャイナタウン」の誕生/山下清海
第3章 世界の華人社会
1 世界各地の華人社会の動向/山下清海
2 世界各地の華人社会リポート
(1) シンガポール──増加する中国新移民──/小木裕文
(2) マレーシア──イポーの三つの優れもの──/野嶋剛
(3) インドネシア──世界最大の華人社会──/野嶋剛
(4) タイ──同化が進む華人社会──/水野純
(5) ベトナム──ホーチミン市チョロン地区の華人ネットワーク──/芹澤知広
(6) カンボジア──五大幇の従事職業傾向──/野澤知弘
(7) 韓国──中国語ブームと韓流のなかで──/尹秀一
(8) パプアニューギニア──流動化する華人コミュニティ──/市川哲
(9) インド──コルカタのチャイナタウン──/竹内幸史
(10) ロシア──ソ連解体後台頭する華人──/小俣利男
(11) イギリス──香港との結びつきが深い広東語社会──/杉村美紀
(12) フランス──複合化する華人社会──/大橋健一
(13) アメリカ──ロサンゼルスの新旧のチャイナタウン──/山下清海
(14) カナダ──エリート華人のクロスロード、トロント──/森川眞規雄
(15) オーストラリア──華人社会と多文化主義──/市川哲
(16) 南アフリカ──21世紀の新たなフロンティア──/池谷和信
(17) ブラジル──サンパウロ東洋人地区の華人──/丸山浩明
(18) 中国からみた海外の華人──華人資本経営の上海の巨大ショッピングモール──/加藤英樹
おわりに/山下清海
[巻末資料]華人社会を知るための書籍案内/山下清海
索引
前書きなど
はじめに かつてマレーシアで華人社会の調査をしていた際に、ある華人の同郷会館を訪れた。「最近、日本人の研究者や学生がやたら訪ねてくるけど、日本人はよほど華人に関心があるようだね。そういえば、だいぶ前にも日本人がいろいろ華人について調べにきたけど、その後すぐに日本軍がやってきたよ」と言って、会館秘書を務める華人の老人は笑った。確かに、第二次世界大戦前、東南アジアへの侵攻を模索していた日本は、現地で経済的に大きな力を持ち、反日的である「華僑」に対して強い関心を抱いていた。当時から、「金儲けが上手で、何となく不気味な存在」という、日本人が抱いてきた「華僑」イメージが、未だに尾を引いているような気がする。 今日、世界各地どこに行っても、漢字の看板を掲げた華人経営の中国料理店があり、バイタリティーあふれる華人の姿に出くわす。日本の居酒屋でも、中国からやってきた若い華人が一生懸命に働いている。以前に比べ、一層身近な存在になっている華人であるが、これまで華人社会について知りたいと思っても、華人社会の伝統的な特色から今日の動向まで、わかりやすく解説したような本はなかった。 編者自身も、『東南アジアのチャイナタウン』(古今書院)、『チャイナタウン——世界に広がる華人ネットワーク』(丸善)など華人社会に関する本を執筆してきたが、今回は幸いにして、華人社会について専門的知識と豊富な体験を持っておられる方々の協力を得て、華人関係の入門書の決定版を刊行することができた。執筆者は三二名(うち九名は華人)に及ぶが、研究者の他に、華人社会の実務で活躍されている方々や新聞記者の方々にも参加していただき、多彩な執筆陣を構成することができた。 本書では、華人社会の伝統的な特色だけでなく、新しい面、変化しつつある面も積極的に取りあげるよう努めた。学生、研究者のみならず、社会の幅広い層の方々に歓迎され、旧来のステレオタイプ的な「華僑」イメージを払拭し、最近の華人社会の動向も知ることができるような本を目指した。 本書の構成は三章からなる。第一章では、華人社会の骨格にあたる部分を論じる。すなわち、華人の歴史、経済、政治、言語、教育、宗教、社会組織などについて、それぞれの分野で専門的に研究している方々に、できるだけわかりやすく解説していただいた。 第二章では、日本の華人社会について取りあげる。まず、日本の華人社会の歴史や民俗文化の特色について論じた後、日本の三大中華街(横浜中華街・神戸南京町・長崎新地中華街)がある横浜・神戸・長崎の華人社会の歴史と現状について解説する。執筆者には、各地の華人社会のリーダー的な方々にも加わっていただき、華人の生の声を伝えていただいた。第二章の最後には、まだあまり知られていない、日本の華人社会の今の姿について考察する。 最後の第三章は、世界の華人社会について取りあげる。まず、世界各地の華人社会の動向をみた後、現地体験豊富な方々に、世界各地の華人社会を、興味深いトピックを中心にレポートしてもらった。古くから「海水到るところに華僑あり」といわれてきたように、読者の多くは「こんなところにも華人が……、あそこにもチャイナタウンが……」と再発見されるに違いない。 ところで、「華人」と「華僑」の用語については、第一章で詳しく解説するが、本書では原則として、中国を離れて海外に居住する中国系住民の総称として「華人」の語を使用する。しかし、華人が居住する地域の条件や時代も異なると、本書のすべてにおいて「華人」に統一することは容易ではなく、一部においては「華僑」あるいは「華僑・華人」、「華僑華人」と表記していることをお断りしておく。 本書が、これまであまり知られていなかった華人社会の真の理解に役立ち、また、より多くの方々が華人社会に興味・関心を持っていただければ幸いである。二〇〇五年三月山下 清海