目次
第1部 アフリカの教育と国際協力の動向
第1章 アフリカの教育開発と日本の国際協力ポテンシャル(澤村信英)
第2章 アフリカ地域における教育協力の動き(横関祐見子)
第3章 国際教育協力における調査手法
—ケニアでの調査を例にして—(内海成治)
第2部 アフリカにおける教育協力経験の活用
第1章 発展途上国の自立に向けた教育政策調査研究と政策立案
—南部アフリカ地域における実践事例から—(黒田一雄・齋藤みを子)
第2章 総合的国際教育協力の可能性と問題点
—マラウイ前期初等学校プログラムを例として—(牟田博光)
第3章 教育分野における「経験提供型」技術協力モデルの提唱
—南アフリカ中等理数科教員再訓練プロジェクトの事例から—(長尾眞文・又地 淳)
第4章 日本の大学は発展途上国の教育開発にどのように協力してきたか
—「ガーナ共和国小中学校理数科教育改善計画」の事例から—(黒田則博)
第5章 開発途上国における数学教育の内発的な展開に向けて
—ケニアにおける事例をもとにして—(馬場卓也)
第3部 アフリカの教育課題への挑戦
第1章 コートジボワール —学校教育に対する親の意識—(堀田泰司)
第2章 ガーナ —初等教育の普及と地域間格差—(宮川めぐみ)
第3章 ナイジェリア —高等教育の拡大とその帰結—(米澤彰純)
第4章 ケニア —伝統的社会における近代的学校教育の意味—(高橋真央)
第5章 タンザニア —教育開発とジェンダー—(大津和子)
第6章 ザンビア —教師教育と教師の力量形成—(山本伸二)
第7章 ジンバブエ —独立後の教育発展と市民教育—(浜野 隆)
第8章 南アフリカ —ポスト・アパルトヘイト教育改革の現状と展望—(澤村信英)
前書きなど
サハラ以南アフリカ地域(以下、アフリカ)には、現在四八の国家がある。その多くは、一九六〇年代初頭に旧宗主国から独立した国々である。独立当初は、国際的経済環境にも恵まれ、比較的順調に成長を遂げていたが、一九七〇年代半ば以降の経済不振から、一九八〇年代の国民所得は減少し、生活水準は悪化した。さらに、紛争や難民の問題もあり、これらの国々の大半は、今も後発開発途上国(LLDC)や最貧国と呼ばれている。急速に発展したアジア諸国とは、あまりに対照的である。 アフリカ諸国の国家歳出は、三割以上が教育予算であることも少なくなく、独立以来、教育を重視した国造りをしてきた。ところが、一九七〇年代後半から、世界経済の悪化とも相まって、教育機会の拡充は期待通り進まなかった。それどころか、アフリカ地域では教育の質が悪化した国がほとんどであり、子どもたちが現在受けている教育は、親が子どもの時に実際に受けた教育より後退しているのが普通である。このような厳しい経験をした地域は、アフリカを除いてほかにない。 教育発展の停滞した一九八〇年代を経験し、一九九〇年にタイで開かれたのが「万人のための教育(Education for All)世界会議」である。この会議は、基礎教育の重要性を再評価し、その後の教育援助政策に大きな影響を与えた。二〇〇〇年にセネガルで開催された「世界教育フォーラム」では、この一〇年間でかなりの改善は見られたものの満足できるものではなく、各国政府・機関のコミットメントが今後とも必要であることが確認され、「ダカール行動枠組み」として発表された。 本書に収録した一連の研究を計画していた一九九八年には、第二回アフリカ開発会議が日本政府の主催により東京で開催された。そこで採択された「東京行動計画」では、アフリカの人々が持つ潜在的な力を自主的に発揮すること(オーナーシップ)を中心として、平等なパートナーとして国際社会がこれに参画すべきであること(パートナーシップ)との認識が共有された。この行動計画の中では、教育、特に基礎教育は最優先すべき分野であることが挙げられている。そして、二一世紀の幕が開けた早々の二〇〇一年一月、森総理(当時)が南アフリカ、ケニア、ナイジェリアの三カ国を歴訪した。現職総理としては初めてのアフリカ訪問であり、アフリカの抱える問題を解決するために、日本が積極的に貢献していくことを表明している。 二〇〇二年に相次いで開催された国際会合では、途上国の開発問題が議論された。六月にカナダ・カナナスキスで開かれたG8サミットでは、アフリカの開発支援が主要な議題となり、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」を支援することが議長声明に盛り込まれた。二〇〇一年に組織されたG8教育タスクフォースは、報告書「万人のための教育への新たな焦点」をサミットの場に提出した。日本政府は「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)」を発表し、基礎教育に対する支援を積極的に行うことを表明した。そして、同年九月に南アフリカ・ヨハネスブルグで開催された地球環境開発サミットにおいて、基礎教育に対し今後五年間で二五〇〇億円を支援することを約束している。 このような流れの中、日本では二〇〇三年九月に第三回のアフリカ開発会議が開催され、アフリカ地域への教育分野の国際協力は、日本の途上国援助の中でも重点領域となっている。他方で、日本のアフリカ諸国に対する援助が資金協力に偏重しており、人的貢献が少ないという国際的あるいは国内からの批判は、国際協力に関連する学術研究が日本において著しく少ない現状とも呼応している。アフリカの教育開発と援助政策の社会科学的分析などの研究は、欧米などに比べると非常に稀であり、日本国内でのアフリカ諸国の教育についての蓄積はわずかしか存在しない。本書はそのような状態を少しでも打破できればと始めた研究の成果をまとめたものである。(後略)はしがき 編著者