目次
改訂版への序文
第1章 テロと神
第1部 暴力の文化
第2章 キリストの兵士たち
第3章 裏切られたユダヤ人
第4章 イスラムの軽視された義務
第5章 シク教の剣
第6章 東京の地下鉄で起きたハルマゲドン
第2部 州境暴力の論理
第7章 テロの劇場
第8章 コスミック戦争
第9章 殉教者と悪魔
第10章 戦士の力
第11章 神の思し召し
解説 宗教的暴力の背後にあるもの◎立山良司
訳者あとがき
インタビュー・文通
参考文献
索引
前書きなど
本書はマーク・ユルゲンスマイヤー著Terror in the Mind of God: The Global Rise of Religious Violence (University of California Press)の全訳である。副題が示すとおり、二〇世紀の終わりから世界各地で頻発するようになった宗教がらみのテロの代表的事例を検証し、その背後にある論理を解明しようとしたものだが、実は初版の刊行は二〇〇〇年一月、あの世界中を震撼させた9・11の一年半ほど前のことである。事件直後に新たな序文をつけたペーパーバック版が緊急出版され、さらに今夏には最新の情報と分析を盛り込んだ改訂版が刊行される。本書の訳出はこの改訂版の原稿をもとにした。 二〇〇一年九月一一日に起きた世界貿易センタービルと米国防総省への航空機による自爆攻撃は、ビル崩壊の模様をテレビが即時に生なましい映像で伝えたこともあり、まさに全世界の人びとにテロの威力を見せつけた。やがてアル・カーイダというイスラム過激派テロ組織が事件に関与していたことが明らかになるにつれ、その行為の不条理さ、不可解さとテロの恐怖はいっそうつのった。しかしユルゲンスマイヤー氏が言うようにそのような宗教と暴力との暗い結びつきは過去一〇年から二〇年のあいだにすでに顕在化しており、日本でもオウムの信徒による同様なテロ、地下鉄サリン事件が起きていたのである。本書がおもに扱っている事例は9・11以前のものだが、いまなお氏の研究はいささかもその重要性を減じてはいない。それどころかこの問題の解決がいっそう切実な、緊急を要する課題になったことから、むしろますます時宜を得た意義深いものになっていると言えよう。 章立てからもお分かりのように、本書は大きく分けて二つの部分からなっている。第I部は、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、シク教、そして日本のオウム真理教など、「暴力の文化」と著者が呼ぶ宗教コミュニティのメンバーによるテロ事件を取り上げ、それぞれの文化状況(カルチュラル・コンテクスト)に照らし合わせて、各実行者の狙い、思考パターン、心情などに迫ったものである。著者は宗教学・社会学のすぐれた理論家であると同時に、ジャーナリスティックな感覚をもちあわせた行動派の学者でもあるので、事件の当事者や関係者とのインタビューをまじえた記述は臨場感に富み、きわめて説得力がある。また第Ⅱ部では、綿密な取材にもとづいた第I部の内容を踏まえ、「暴力のパフォーマンス」としてのテロという観点から宗教暴力の論理を分析し、テロ実行に至る段階の見極めとそれを防ぐための解決策を提案している。(後略)訳者あとがき